
第80回 腕の短い南米の大型ラプトル
3月14日(土)から国立科学博物館で「大恐竜展〜知られざる南半球の支配者〜」が開催されます。マプサウルスなど、南半球の恐竜化石が多数展示されます。 最近、その南米・パタゴニアで、体長が5メートルほどと大きなドロマエオサウルス類の化石が発見されています。面白いことに、T.rex のように前肢がかなり短いのが特徴です。 今まで、南米大陸のドロマエオサウルス類は、小型種しか発見されていませんでしたが、比較的大型の種も生存し、北半球とは違い白亜紀の終わり頃まで生き延びていたのです。
北半球とは異なる特徴
発見されたのはアルゼンチンにある白亜紀後期(約7000万年前)のアレン層(Allen Formation)からで、ゴンドワナ大陸からは最も新しい時代のドロマエオサウルス類です。Austroraptor cabaza (オーストロラプトル)と命名されています。
下の図に示したように、頭部の一部や、上腕骨、大たい骨などの化石が発見されています。体長は5メートルほどと推定されていますが、尾の部分が見つかっていないため、多少前後するかもしれません。
頭部は80センチほどと長く、鼻先が細いのが特徴で、小型で円錐形の歯はスピノサウルスに似ています。このあたり、頭部が比較的短く鋭い歯を持つ北半球のドロマエオサウルス類とは大きく異なっています。体が大きいだけに、大たい骨はしっかりしています。

系統的には、ドロマエオサウルス類(Dromaeosauridae、科)のウネンラギア類(Unenlagiinae、亜科)に位置づけられています。ウネンラギア類はゴンドワナのドロマエオサウルス類からなるグループで、パタゴニア産のブイトレラプトルやウネンラギア、マダガスカル産のラホナビスなどが含まれます。 ウネンラギアやラホナビスとは姉妹群とされていますが、いずれも前肢が短いわけではなく、この仲間の中でも多様性があったのです。
短い前肢
下の表でドロノエオラウルス類の各部位の長さを比較しています。オーストロラプトルの脛骨は56.5センチとユタラプトルの50.5センチよりも長く、推定体長は4.94メートルとされています。 また、上腕骨/大たい骨の比率が0.47と、ドロマエオサウルス類のなかでは最もその比率が小さいのが大きな特徴です。通常は、0.6〜0.9程度で、鳥類に近づくとと1.0を超えます。姉妹群のウネンラギアやデイノニクスは0.7ほどです。
オーストロラプトル Austroraptor cabazai |
ウネンラギア Unenlagia comahuensis |
ヴェロキラプトル Velociraptor mongoliensis |
デイノニクス Deinonychus antirrhopus |
ユタラプトル Utahraptor ostrommaysi |
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---|---|---|---|---|---|
上腕骨 | 26.2 | 26.5 | - | 25.4 | - |
大たい骨 | 56.0 | 36.8 | 23.8 | 34.4 | - |
脛骨 | 56.5 | 41.8 | 25.5 | 36.0 | 50.5 |
推定体長 | 494.3 | 323.6 | 208.0 | 302.0 | - |
上腕骨 / 大たい骨の比率 |
0.47 | 0.72 | - | 0.74 | - |
南米で独自に進化
小型化する種がいた一方で、大型化を選んだドロマエオサウルス類もいたのです。ドロマエオサウルス類は少なくとも3回は巨大化したとされています。ゴンドワナでは、体長3メートルあまりのウネンラギアがその例です。
南米大陸では、白亜紀後期にかけ、カルカノドントサウルス類の後、主にアベリサウルス類が支配していたとされています。同じアレン層で発見されているクイルメサウルス(Quilmesaurus curriei)などです。
南米大陸のドロマエオサウルス類は、小型種しか発見されていませんでしたが、今回の発見で、オーストロラプトルのような比較的大型のドロマエオサウルス類も加わっていたのです。
しかも北半球の大陸と違い、白亜紀の終わり頃まで生き延びていたのです。
参考: |
A bizarre Cretaceous theropod dinosaur from Patagonia and the evolution of Gondwanan dromaeosaurids. Fernando E. Novas et al. Proceedings of the Royal Society B, Retrieved on 18 December 2008. |